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第3話「檻のなかで鳴く子」

テイルズ・オブ・オレオ
管理者のプロフィール
[この記事を書いた人]
jyosui

2023年10月末にペットショップで仔猫との運命的な出会いをきっかけにどっぷり猫沼に浸かってしまったアラフィフのサラリーマンおじさん。猫のことをもっとよく知りたいと、譲渡会・猫イベント・地域猫セミナーなどに積極的に参加。ねこ検定初級を受検するなど知識向上にも取り組み中。「世界中の猫を幸せにしたい!」を夢に、保護猫カフェ経営を目指して日々猫活中。

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前回までのあらすじ

亜希が鍵をかけ忘れた網戸から脱走したオレオは、裏路地で路地を仕切る雄猫カグラと出会った。ビスコの名前で通行を許されたオレオに、カグラは告げる——「明るすぎて、おまえが泣くかもしれない場所に連れていく」。

本編

繁華街は、夜でも昼みたいだった。

駅前のアーケードは看板の色で塗りつぶされ、アスファルトにはピンクと黄色の光の水たまりができていた。酔った人間の笑い声、誰かのヒール、遠くの救急車。匂いは、揚げ物と、香水と、雨上がりと、それから——。

「ここだ」

カグラが、折れた尻尾の先で、ガラス張りの店を示した。

カラフルな旗。ふわふわのポスター。「生体展示中💕」と書かれた扉——亜希の絵本で覚えたひらがなを、オレオは、ゆっくり、目で追った。ショーウィンドウの中には、小さな四角い透明の部屋が、縦に三段、横に五つ。計十五。

——仔犬と、仔猫が、ひとりずつ、入っていた。

オレオは、ガラスに鼻を寄せた。

白いトイプードル。目をぎゅっと閉じて震えている。ミニチュアダックスフント。前足で扉を引っ掻いた跡が、無数についている。マンチカン。何もしないで、ただ壁の一点を見ている。その隣の子猫は、自分の尻尾をくわえたまま、動かない。

どの子も、敷き詰められたペットシートの同じ場所に、同じ姿勢で座っていた。おもちゃはなかった。毛布もなかった。ただ、プラスチックの水入れと、小さな皿だけが、どの部屋にも、同じ位置にあった。

ポスターには、桃色の字で「かわいい家族、見つかる💕」と書いてあった。

「——なんで」

声が、うまく出なかった。

「なんで、みんな、ひとりなの」

「仲間といると、情が移るからな」カグラは、看板を見上げたまま言った。「情が移ったら、値段をつけられない

オレオの首輪の鈴が、一度、からん、と鳴った。

慌てて肉球で押さえたけれど、ガラスの向こうの仔犬は、その音に気づいて、ぴくりと耳を動かした。目と目が、合った。

仔犬は、鳴かなかった。

鳴く元気が、もう残っていないようだった。

「仔犬も、仔猫も、本来は、母親と兄弟と一緒にしばらく過ごさなきゃいけないんだ」カグラは、呟くように言った。「でも、ここでは、生後二ヶ月もしないうちに、母親から引き離される。売れやすい見た目でいられる時期が、短いからだ」

オレオは、ガラスの冷たさに鼻先を押しつけたまま、動けなかった。自分には、亜希と暮らしはじめる前の記憶が、ない。母さんの匂いも、兄弟の味も、なにひとつ、覚えていない。はじめから、亜希といた気が、している。

目の前の仔犬たちには、自分のような「はじめから」も、ないのかもしれなかった。

「坊主」

カグラが、低く言った。

「ここは、まだマシな方だ」

「……マシ?」

「ショーウィンドウに並ぶってのは、『商品』として選ばれた子だ。売れ残りは、裏から消える。売れない犬猫を、どこへやるかってのは——風の便りにもいろんな説がある」

オレオは、もう一度、仔犬の目を見た。黒々とした、小さな目。

ビスコが怒ってた理由、わかった気がする」

カグラは、ちらりとオレオを見た。それから、静かに尻尾を一度だけ振った。

「坊主。本当に被災地まで行く気か」

「はい」

「ジークライオンが、いい奴か悪い奴かは、おれには分からん。ただ、ここを見て帰らない奴のほうが、おれは信用できる

カグラは、繁華街の裏手へ顎をしゃくった。

「裏に出た路地の先、高架下に駅の貨物ホームがある。夜中の二時ちょうどに、東北方面の貨物列車が停まる。三両目の、窓が少しだけ開いているやつ。そこに飛び乗れ」

カグラは、そこで一度、言葉を切った。それから、ぽつりと、付け足した。

「逆に、南へ行く便も、ある」

「南?」

「海辺のほうへ、な。だが——南へ向かう奴は、戻ってこない

カグラは、それ以上、説明はしなかった。ただ、折れた尻尾の先を、嫌うように、月のない空へひと振りした。

「ありがとう、カグラさん」

「礼なんざいらん。ただ、一つだけ」カグラは、ショーウィンドウのネオンの反射を、嫌そうに横目で見た。「向こうで何を見たって、ここで見たものを、忘れるな。人間は都合の悪いことを忘れるのが得意だが、おれたち猫は、忘れない生き物だ」

オレオは、目を見開いた。

「それ、よく知ってますね」

「昔、相棒を送った」カグラは短く答えた。「帰ってこなかった相棒だ」

夜風が、ひと呼吸ぶん、ふたりのあいだを通り抜けた。

「……行きます。ありがとう、カグラさん」

「カグラでいい」と、彼は言った。「行け。帰ってきたときは、裏路地のどこかでまた会うかもしれん」

オレオは、一度だけ、ガラスの中の仔犬に向かって、ちいさく鳴いた。

きっと、助けに戻ってくるから。

——その声は、ガラスの向こうには届かなかったかもしれない。でも、仔犬は、ほんの少しだけ、前足を動かした。扉に触れる位置まで、のろのろと。

それが、返事のように、オレオには見えた。

オレオは、駆け出した。

貨物ホームへ。北へ。被災地へ。

次回予告

揺れる貨物列車に忍び込んだオレオを待っていたのは、焼け野原と呼ぶには、あまりにも活気に満ちた光景だった。瓦礫を運ぶブルドッグのタルトが、陽気に笑う。「ジークライオン? あいつはいい奴だよ!」

次回『第4話 復興の音』。 噂が、はじめて、ぐらりと揺れる。

オレオの旅のおとも🐾

「かわいいから」という理由だけで選んでしまう前に、「その子がどこから来たのか」を、ほんの少しだけ考えてみませんか。

猫や犬、ペット業界にはいのちを取り扱うという重大な責任がある。
ペット業界の裏側には、ろくに世話もされずボロボロになるまで子犬を生まされるお母さん犬がいて、その実態を告発し命の大事さを訴える内容になっている。↓

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📖 **連載『テイルズ・オブ・オレオ』全10話・毎週土曜20時更新。** 次回、物語は大きく動きます。

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