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第5話「獅子の真実」

テイルズ・オブ・オレオ
管理者のプロフィール
[この記事を書いた人]
jyosui

2023年10月末にペットショップで仔猫との運命的な出会いをきっかけにどっぷり猫沼に浸かってしまったアラフィフのサラリーマンおじさん。猫のことをもっとよく知りたいと、譲渡会・猫イベント・地域猫セミナーなどに積極的に参加。ねこ検定初級を受検するなど知識向上にも取り組み中。「世界中の猫を幸せにしたい!」を夢に、保護猫カフェ経営を目指して日々猫活中。

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前回までのあらすじ

被災地に到着したオレオは、瓦礫を運ぶ動物たちと、陽気なフレンチブルドッグ・タルトに出会う。タルトいわく「ジークライオン? あいつはいい奴だよ」。紙芝居を読む低く優しい声が、集会所から朝日と共に響いていた——。

本編

集会所は、板張りの、天井の低い建物だった。

元は小学校の体育倉庫だったのかもしれない。色褪せたマットが敷かれ、その上に、動物の子どもたちが、お行儀よく並んで座っていた。子犬、子猫、仔リス、仔ハリネズミ。しっぽが長いのも、短いのも、ぴこぴこ揺れているのも、ぴたりと止まっているのも。

そして、その正面に——いた

オレオの知っているどんな犬よりも大きく、どんな馬よりも太い。夜の闇を編み込んだような、黒いたてがみ。盛り上がった肩の筋肉。前足は、オレオの胴体よりずっと太い。

けれど。

そのライオンは、折り紙の小さな舞台の前で、膝を折って座り、前足の爪の先で、紙芝居の札を、ものすごく慎重に、一枚、一枚、めくっていた。

「——こぐまくんは、ひとりぼっちでした

ライオンの声は、腹の底に響く、たしかに獣の声だった。けれどその声には、うんとゆっくり、うんと丁寧に、言葉を届けようとする気配があった。

子どもたちは、しんと聞き入っていた。途中で、仔ハリネズミが「こぐまくん、かわいそう!」と泣き出した。ジークライオンは、紙芝居を止めて、その仔ハリネズミのところへ這って行き、自分の太い指先で、つんつん、と優しく背中をなでた

「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ。こぐまくんには、このあと、ちゃんと仲間ができるからね」

オレオの胸の中で、なにかが、すとん、と音を立てて落ちた。

——違う。

この獅子は、動物をさらうものじゃない


紙芝居が終わると、ジークライオンは、集会所の外に置かれた木の切り株に腰を下ろした。子どもたちが次々と背中にのぼり、たてがみを三つ編みにしようとし、耳をひっぱり、鼻の上で昼寝を始めた。

「——ぼく、オレオ、っていいます」

オレオは、大きな前足の横に、小さく座った。

「都会から来ました。あなたが、動物をさらって、暴れまわっていると、聞いて」

ジークライオンは、ほんの一瞬、目を閉じた。

目を開けると、その瞳は、悲しいような、しかし怒ってはいない色をしていた。

「——その噂は、もう、ずいぶん長くなる」

声が、低く、震えた。

「おれは、もとはサーカスの見世物だった。狭い檻で、ずっと、曲芸を覚えさせられていた。ある夜、嵐で檻の鍵が壊れて、そのまま逃げた。——この地に流れ着いたのは、その日から三年後だ」

ジークライオンは、自分の太い前足の爪を、じっと見た。

「三年のあいだ、山に隠れて、河原で眠って、誰とも目を合わせなかった。ライオンを見た人間は、みんな、怯えた。おれも、人間が怖かった。お互いに怯えあう三年だった」

「おれは、こいつで人間を殴ったことがない。殴れと言われて、殴らなかったから、サーカスで干されたんだ。動物をさらうなら、おれのこの爪は、もっと汚れている

オレオは、じっと聞いていた。たしかに、ジークライオンの前足は、どこにも血の匂いを帯びていなかった。爪のあいだに詰まっているのは、木の切り粉と、誰かがこぼした粉ミルクと、小さなクレヨンの蝋だけだった。

オレオは、しばらく聞いてから、ふと、訊いた。

「ジークライオンって——本当の、名前?

ジークライオンの琥珀の瞳が、ほんの一瞬、遠くを見た。それから、低く、笑った。獣のため息のような、笑い方だった。

「——本当の、と言えるかは、分からん。おれが、自分で選んだ名前だ」

「もとは?」

ジークライオンは、答えなかった。たてがみの黒に、朝日の金色が、ほんの一筋だけ、刺さった。

「サーカスでは、強そうな名前が、必要だった。勝利の獅子、と書かれた看板の前で、おれは、毎晩、芸を披露した」

「けれど、おれは、なににも、勝っていなかった。鎖と、ガラスの檻と、人間の鞭に、ずっと、負けていた」

ジークライオンは、ふっと、声を落とした。

「逃げた夜、おれは、檻の名札を、自分の歯で噛み切った。——けれど、その夜、雨に打たれながら、おれが、口の中で、何度も繰り返したのは、ジークライオン、だった」

「呪いみたいに、こびりついていた。——だから、決めた。呪いを、おれの名前にしよう

「それで、誰にも、貸さない名前になる」

「——もう、人間が、おれを、呼ぶための名前じゃない」

オレオは、しずかに、息を吐いた。

——動物には、自分の名前を、自分で選ぶ自由が、ない。そう知った夕暮れから、まだ、たいして時間は経っていない。

けれど、目の前の獅子は、自分の名前を、もう、自分で、選び直していた

「じゃあ——なぜ、そんな噂が」

流している奴らがいる

ジークライオンは、空を見上げた。

「ここの復興が軌道にのると、困る奴らだ。被災地には、助けが必要な動物たちが、たくさん集まる。そいつらを、『商品』として引き抜いて売りさばいているやつらが、別の場所にいる。おれが復興のリーダーをやっていると、そいつらのシノギが、やりにくくなる」

ジークライオンは、一度、言葉を切った。太いたてがみの奥で、なにかが、ほんの少しだけ、しずんだ

「——それと、おれ自身のことも、ある」

子どもたちが、不思議そうに、ジークライオンを見上げた。

「おれは、この被災地に流れ着く前に、大勢を助けようとして、助けきれなかったことがある。河原に集まった、行き場のない動物たちだ。その動物たちを狙う悪い奴らから、ひとつの命を、おれは、守りきれなかった

オレオは、息を飲んだ。

「その子のことは、おれは、いまでも忘れていない」ジークライオンの声が、ほんの少しだけ、ざらついた。「噂というのは、ああいう『悲劇の瞬間』から、少しずつ、生まれるものなのかもしれん。——おれを悪者だと言う風の便りの、ほんの最初のひと吹きは、——あの夜、おれの中にあった、ほんのひと呼吸の迷い、だったのかもしれん」

——風の便りは、誰かが、つくる

オレオの耳の奥で、ビスコの乾いた声が、もう一度、響いた。

「ジークライオン」

オレオは、背中を低くし、真っ直ぐに言った。

「その『やつら』を——見に、行きたいです

ジークライオンの隣で、タルトが、どん、と前足を地面に打った。

ぼくも行く!! 行く行く行く!!

ビスコは、欠けた左耳を、ぴく、と一度だけ動かした。

「——わたしも、行く。これを、確かめに来たから」

ジークライオンは、ふっと、口の端をほころばせた。笑顔にしては、目尻が濡れすぎていた。太い指の背で、その雫を、ぐい、と拭った。子どもたちが、その動きを不思議そうに見上げていた。

「——おまえたちの旅に、風の便りの一つを渡そう。次に行くべきは、譲渡会と、闇市だ。どちらも、近い。どちらに向き合えるかで、この世界の景色は、まるで違って見える」

ジークライオンは、そこで一度、空を見上げた。たてがみの黒に、朝日が、ほんの少しだけ、刺さった。

「——その先には、海辺がある。次の風は、海辺だ。あそこは——おれが、行けなかった場所だ」

ビスコが、低く、訊いた。

「ジーク、——あんたは、ここに残るのか」

ジークライオンは、しばらく、答えなかった。それから、ふっと、口の端をほころばせた。

「——いや。おれも、行く。紙芝居は、ここの古株のばあちゃん犬に頼んでおく。あいつのほうが、おれより、ずっと、声が、やさしい」

「ただし、おれは、人間側のヤスミに連絡をつけてから、後を追う。おまえたちは、先に、譲渡会を見ておけ。——闇市の入口で、合流しよう」

それ以上は、ジークライオンは何も言わなかった。ただ、口の端を、すこしだけ、引き結んだ。

朝日が、三つのしっぽを、金色に染めた。

次回予告

ジークライオンに送り出された三匹が次に訪れるのは、希望に満ちた保護動物譲渡会。「買う」ではなく「迎える」家族の姿が、そこにあった。けれど——会場の片隅で、オレオの耳はある異音を拾う。

次回『第6話 いい出会い』。 命が、命を選ぶのではなく、命が命と出会う場所へ。

オレオの旅のおとも🐾

大きな体に、やさしい心を抱えたジークライオン。強さとやさしさは、両立できる。動物たちの健康を支える「中身」も、また、強さの一部です。

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📖 **連載『テイルズ・オブ・オレオ』全10話・毎週土曜20時更新。** 後半戦は「希望」と「告発」が交互に打ち寄せます。

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