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第6話「いい出会い」

テイルズ・オブ・オレオ
管理者のプロフィール
[この記事を書いた人]
jyosui

2023年10月末にペットショップで仔猫との運命的な出会いをきっかけにどっぷり猫沼に浸かってしまったアラフィフのサラリーマンおじさん。猫のことをもっとよく知りたいと、譲渡会・猫イベント・地域猫セミナーなどに積極的に参加。ねこ検定初級を受検するなど知識向上にも取り組み中。「世界中の猫を幸せにしたい!」を夢に、保護猫カフェ経営を目指して日々猫活中。

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前回までのあらすじ

紙芝居を読むジークライオンの真実を知ったオレオ、ビスコ、タルト。噂を流した「黒幕」——動物を『商品』として売りさばく勢力が近くにいることを告げられ、三匹は被災地を発つ。次なる目的地は、譲渡会と、闇市場。

本編

譲渡会の朝は、空がとても広かった。

町はずれの大きな芝生の広場。ブルーシートと白いテントが、風に小さく鳴っていた。「保護動物と出会う日」という大きな手書きの看板の隅には、小さく「主催:ヤスミアニマルレスキュー」と添えられていた。首輪の色で種類を分けられた犬たち、静かなキャリーの中の猫たち、そしてプラカードを首から下げたボランティアの人間たち。

「プラカード、読める?」

ビスコが、オレオの耳の横で、ぽつりと尋ねた。

——被災地を出る前、ビスコは、少し痩せたままだったが、目の光は強くなっていた。ジークライオンに会ってから、何かの氷が、彼の中で溶けはじめたようだった。

「うん、読めるよ」

「全部、『譲渡費用のみ』って書いてある。売ってるわけじゃない

「……売ってない?」

「『譲渡費用』ってのは、人間が、その子のために、これまで使ったお金を、ほんの一部だけ、新しい家族にも、分けてもらうっていう、そういう仕組みらしい。売り買いじゃない

オレオは、看板の下に座っている保護犬を、じっと見た。尻尾の先の毛が、少し薄くなっている中型犬。痩せぎすだが、人間の子どもが近づくと、ぴたりと動きを止めて、そっと地面の匂いを嗅がせた。怖がらせないように動いていた。

そこへ、小さな女の子が、お母さんの手を引きながらやってきた。女の子は、犬の前にしゃがみ込み、目線を合わせた。

「——しょう、くん

プラカードの文字を、女の子は、指でなぞった。

「しょうくん、うちに来てくれる?」

しょうくん、と呼ばれた犬は、しばらく動かなかった。それから、ゆっくりと、たった一度だけ、しっぽを振った。

お母さんが、女の子の肩に、そっと手を置いた。

「……いいの? あの子のこと、まだ——」
「だいじょうぶ」女の子は、しょうくんから目を離さずに、言った。
「あのね、ママ。しょうくんは、しょうくんだもん

女の子の目から、ぽろ、と大きな粒が落ちた。お母さんも、両手で口を覆って、黙って涙を流した。

……うん」と、しょうくんが、オレオたちの言葉で、呟いた。「うん、行くよ。その子の家に

オレオの胸の奥で、なにかが、熱くなった。
心が、揺れた。
なぜ揺れたのか、自分でも、よく、分からなかった。

ふと、隣を見ると、ビスコの欠けた左耳が、ぴく、と一度、揺れていた。
目尻が、ほんの一瞬、ゆるんだ。
それから、ふっと、ビスコの視線は、芝生の遠くを、見た。空にも、似た、遠さだった。
ビスコは、何も、言わなかった。

犬も猫も、鳴き声では返事をしない。いちばん静かな、尻尾の、いちばん小さな動きで、「行きます」と答える。それが、おそらく、動物たちが人間を選ぶ、唯一の方法だった。

芝生の隅で、順番待ちをしている別の保護犬は、家族が見つかった子を、じっと見つめていた。羨ましそうではなかった。こちらも、いつか、誰かと目が合うと信じているような、静かな瞳だった。


「なあ」

タルトが、鼻先でオレオの横腹をつついた。タルトの鼻が、ぴくぴく、と、風上に向かって、せわしなく動いていた。

あっちのテントの隅っこ、ぼく、気になる。風が、ちょっと、にがい

タルトが示したのは、会場のいちばん奥、他のテントとは少し離れた、小さなグレーのテントだった。「健やかな子犬たちに、新しい家庭を」と、印刷された看板が、テントの上に、ぴんと、きれいに張られていた。他のテントの手書きのプラカードは、字の傾きや、色のかすれが、すこしずつ違っていた。けれど、このテントの看板だけは、まるで——どこか別の場所で、たくさん刷られたうちの一枚、のような顔をしていた。

テントの奥には、透明なケースが、行儀よく、いくつも並んでいて、その一つ一つに、毛色の違う子犬が、ひとりずつ、入っていた。

——オレオの背中の毛が、ぞわ、と、逆立った。

前に、見た
夜の繁華街の、ガラスの店。縦に三段、横に五つ。ひとりずつ、並べられていた、あの仔犬たちと——同じ並び方だった。

「情が移ったら、値段をつけられない」

カグラの、低い声が、耳の奥で、もう一度、響いた。

そのテントの裏に止まっている軽トラの荷台には、青いペンキで「南行き」と書かれた小さなプレートが、ぶらさがっていた。他の業者のラベルは、たいてい地名だった。「○○市内便」「□□区行き」。南行き、だけが、行き先の名前を持っていなかった

「——あれは譲渡じゃない」ビスコが、目を細めた。「紛れ込んでる業者だ」

タルトの鼻が、ぴくりと動いた。

匂いが、違う」タルトは、眉間にしわを寄せた。「ぼく、犬だから、わかる。あのテントの子犬たち、母親の匂いが、全員、同じじゃない。それなのに、全員、体臭が同じ。——同じ消毒剤で、一斉に洗われてる

しんと、芝生の片隅の空気が、三匹の肩越しに、重くなった。隣のテントで、家族と出会った犬の尻尾が、いままさに、ゆっくりと左右に振られている。その明るい色と、いま嗅ぎとった匂いの対比が、かえって、残酷だった。

三匹は、しばらく黙った。

希望に満ちた芝生の片隅に、ぜんぜん違う色の風が、ひそかに吹いていた。広場の反対側では、ボランティアの人間が、譲渡が決まった保護犬の首輪に、新しい迷子札をつけていた。カチ、と小さな金具の音がした。その音は、オレオの首輪にも、かつて、鳴ったはずの音だった。

「——あとをつけよう

オレオが、低く言った。

「あのテントが、夕方、どこに荷物を運ぶか」

ビスコの、細く冷たい瞳の奥で、小さな火が、ぱちり、と音を立てた。

昼は、希望。夜は、告発。

譲渡会の青空の下で、三匹は、そっと、立ち上がった。

次回予告

「業者」のテントを追跡した三匹が辿り着いたのは、郊外の倉庫街、その地下に広がるペット競売所。麻袋、値札、囁く声——命が「モノ」として流通する、闇の市場

次回『第7話 闇の市場』。 小さな身体だからこそ、できることがある。

オレオの旅のおとも🐾

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📖 **連載『テイルズ・オブ・オレオ』全10話・毎週土曜20時更新。** 次回から、物語は告発パートに入ります。

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